町田音楽ネットワーク
今月の音楽人
49 2005年8月号)

何も存在していない所に人の心を動かす「モノ」を創り出す。
その「モノ」には誰も触る事ができないし終わればその存在は消えてしまう。
そんな「モノ」をこの地域で創り出してきた人々を紹介していきたい。


―  東京工芸大学客員教授 村山 登 さん 



 今や、音楽にかかわる世界でデジタル技術のお世話になっていない人はいない。レコーディングの現場はもちろん、ほとんどの音楽再生機器もCDとMDが登場して以来デジタル機器に移り変わってきた。21世紀初頭のオーディエンスはパソコンとMP3ポータブルオーディオで音楽を楽しんでいる。そして、現代のこのライフスタイルを支えているのがデジタルデータの「圧縮技術」。ATRAC、MP3、Real、 WMA、AACとかいろいろある。今月の音楽人はこの「圧縮技術」研究の権威、町田市成瀬台在住の村山 登 さん。

 村山さんは石川啄木と同郷の岩手県玉山村のご出身。子供の頃から音楽とモノづくりが大好きで、高校時代には、自作オーディオの部品調達のために盛岡からはるばる秋葉原まで遠征することもあった。秋葉原通いは東京大学に進学してからも続く。奨学金のほとんどは電気・電子部品へと消えてしまったという。

その意気込みは、ついに、おそらく日本最初となるシンセサイザーをたった一人で作り上げるという成果へと発展する。世にムーグシンセサイザーが登場するよりもずっと前、昭和31年(1956)のことである。もちろん「シンセサイザー」という言葉さえもない時代。しかし、一学生だった村山さんのもとに噂を聞きつけて集まった楽器メーカーの開発担当者たちにはその謎の電子楽器の魅力も意味も理解できなかった。時代がまだ村山さんに追いついていなかったのだ。一方、村山さんは「東大工学部ではなく音楽学部を卒業したんです。」というほど音楽活動(合唱団)にも熱心な学生だった。

 村山さんの研究者としてのキャリアの中では(株)リコーの研究所で手がけた数々の研究・開発がよく知られている。村山さんの画像符号化・画像処理研究の中から誕生したファクシミリのデータ圧縮方法は今や世界標準となった。皆さんの家庭にあるファックスがあんなに早く転送できるのは村山さんのおかげなのだ。他にも約150件の特許を村山さんは持っている。でも「フリーにしているんです。」という言葉を聞いてびっくりした。著作権フリーということだ!これがアメリカだったら大金持ちだ!話がそれるのでここではあまり触れないが、要するに「コピーレフトの考え方が必要なんです。」(詳しくはリンク先へ)ということだそうだ。確かに「権利、権利!」のアメリカ式発想も社会にとって決してプラスではない。

 現在、村山さんは計算工学、データ圧縮・符号化、スケーラブル・アート(下のリンク先江戸版画高品質WEB美術館参照、拡大しても縮小しても画質が落ちません、つまり将来ディスプレイの解像度が上がっても対応可能)、そして自動作曲を専門分野として、芸術学部メデイア・アート表現学科で「サウンドデザイン論」などの講座を担当している。学生が演習で制作したMIDI作品や自動作曲演奏する不思議なフローチャートなどをディスプレイで見ながらスピーカーから流れてくる曲を聞いていると、ずいぶん楽しそうな研究があったものだ、と思ってしまった。

音楽、画像、映像、文字、現代人を取り巻く大量のデジタルデータは増える一方だけれど、どんどん圧縮されて使いやすくなって行くのも事実だ。それを支えている研究者にも感謝しよう。(文:城川隆生)

江戸版画高品質WEB美術館
(36.江戸百景抜粋)



(スケーラブル・アートの世界)


=> Noboru Murayama's Site


バックナンバー