町田音楽ネットワーク
今月の音楽人
45 2005年4月号)

何も存在していない所に人の心を動かす「モノ」を創り出す。
その「モノ」には誰も触る事ができないし終わればその存在は消えてしまう。
そんな「モノ」をこの地域で創り出してきた人々を紹介していきたい。


―  ピアニスト 吉弘 知鶴子 さん 


 おそらくジャズフュージョン系の音楽を愛する人で、彼女の名を知らない人はいないと思う。1993年にファーストアルバム「コンシャスマインド」をリリースした当時、UKソウル、アシッドジャズの全盛期、彼女はその渦の中心にいた。UKソウルの雄インコグニートを従えて、洗練されたプレイを聴かせるこのアルバムは、言ってみればクラブ系とかスムースジャズのハシリだ。それから10年、彼女の音楽と活動は、より深く、アメリカ南部へ、そしてブラックミュージックへと進化していた。今月の音楽人は、相模原市東林間とニューオリンズの両方を拠点に活動するピアニスト、 吉弘 知鶴子さん。(1993年当時は千鶴子さん)

 吉弘さんは兵庫県西宮市の出身。小学校の高学年からは東京新宿で育った。クラシックピアノの本格的なレッスンを続けながらも、実はソウルミュージックの魅力に徐々に引き込まれて行った中学・高校時代。ラジオから流れてくるソウルミュージックは、演奏者の姿が見えなくてもなぜ黒人が演っているとわかってしまうんだろう?その独特のグルーヴ、空気感、匂いが大好きだった。

 学生時代は、ビッグバンドのピアニストとして活動。あるコンテストでのソリスト賞受賞をきっかけに、プロピアニストへの道を歩み始める。やがて、セッション&バッキングミュージシャンとしての数々の仕事、そして、カシオペアの神保彰、櫻井哲夫らが結成したJIMSAKU、山岸潤史、カルロス菅野とともに結成した浪花オールスターズのメンバーとして、日本のジャズフュージョン界のトップピアニストとしての地位を確立していった。

 そんな中、ファーストアルバムを発売。この時吉弘さんがイギリスのバンドを選んだ理由は、アメリカの70年代ソウル、ジャズファンクを「外からリスペクトする」という意味で、似たようなスタンスを持つ共通点があったから。それが結果的には、自分の方向性をまだ模索していた時だっただけに、とても良い経験になったという。というのもその後、吉弘さんの音楽は、次第にティーンエイジャーの頃から大好きだった、そしてそれまでは「外からしかリスペクトしていなかった」ブラックミュージックそのものへと傾いていくのだ。
 
 現在、吉弘さんはルイジアナ州ニューオリンズに毎年通っている。ところが、「ここはおもろいで〜」という山岸潤史さんに連れられて、初めてニューオリンズを訪ねた時、実は、音楽レベルの高さと層の厚さに圧倒されて、気持ちが悪くなって帰ってきたそうだ。(もちろん食べ物のこともあるらしい)

ところが、翌年からは何故かハマリにハマリ、なんとはや10年がたった。今やそこは仕事場でもあり、生活の場でもある。吉弘さんは、ブルースの女王マーヴァ・ライトのバンドや、マルディ・グラ・インディアン・ファンクのビッグ・チーフ・ボー・ドリス&ザ・ワイルド・マグノリアスのレギュラーメンバーなのだ。(マーヴァ・ライトのバンドのベーシストは、フレディ・キングの弟ベニー・キング。実は、彼を中心に、吉弘さんたちはフレディ・キングのトリビュート・アルバムを録音したそうだ。ただしリリース日はまだ未定)
 
 2002年からは文化庁芸術家在外派遣研修員として、1年間ニューオリンズに滞在。この制度は、友人のピアニスト、国府弘子さんから勧められたそうだ。ところが、事前に、研修目的を論文に書いて提出しなくてはならない。審査をする先生方はDr.ジョンもネヴィルもご存知なさそうなので、ガーシュインでまとめたというのは、一部ではちょっと有名な話?
 
  ある日、バーボン・ストリートのあるクラブで、演奏を終えた吉弘さんに一組の黒人夫婦が声をかけてきた。それがケンタッキーのポーク牧師との出会い。その後、ポーク牧師は、年1回の教会コンサートで演奏して欲しいという希望を吉弘さんに伝えてきた。予定が合わず断った吉弘さんを、ポーク牧師は計画を変えてまで何回も説得にあたった。そして、2003年9月23日、ケンタッキー州イマニ・バプティスト教会に、吉弘さんのピアノと100人を超える教会クワイアの賛美の歌が響き渡った。
 
 2005年1月、吉弘さんがリリースしたニューアルバムのタイトルは「ライブ!ゴスペルピアノ」(下写真)。そしてそのライブとは、もちろんケンタッキーでのあの日のライブなのである!(文:城川隆生)

☆吉弘さんの演奏をこのエリアで聞けるチャンス
 
 =>4月23日(土)19:00>>
   Just as nice
「南の島」(中央林間)

 =>毎週火曜日19:30>>
   Sounds of Joy Gospel Choir「ユアチャーチ」(町田)


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吉弘知鶴子
「ライブ!ゴスペルピアノ」

AJCD0027


(左上)レコーディング仲間のベニー・キング(B.)&ジェリー・ビーン(Dr.)とともに
(左下)ツアー中。バーナード・パーディ(Dr.)とともに


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