町田音楽ネットワーク
今月の音楽人
43 2005年2月号)

何も存在していない所に人の心を動かす「モノ」を創り出す。
その「モノ」には誰も触る事ができないし終わればその存在は消えてしまう。
そんな「モノ」をこの地域で創り出してきた人々を紹介していきたい。


―  三味線 紅屋 小杉山 和男 さん 


 今、面白い邦楽ブームが起こっている。花形は津軽三味線と和太鼓。しかも、吉田兄弟・上妻宏光・木乃下真市といったイケメンの若手三味線ミュージシャンたちが全国ツアーを行い、ライブ会場を満杯にしている。その魅力の一つはロックミュージックの美意識とも共通するワイルドな躍動感と迫力、かっこよさ、それにインプロヴィゼーション。2004年には『バチ2(BACHI-BACHI)』という音楽雑誌までが創刊され、津軽三味線情報と和太鼓情報が全国に発信されている。そして、その世界をしっかりと支えているのが伝統の技を受け継ぐ楽器職人なのだ。というわけで、今月の音楽人は座間市の三味線・琴・尺八専門店「紅屋」の小杉山和男さん。

 小杉山さんは秋田県能代のご出身。三味線の作業をしながら故郷を語るお国訛りが東北の山野を豊かにイメージさせてくれる。小杉山さんの生家は大きな農家だった。母屋の中にはいくつもの大きな畳部屋の他に馬小屋と板の間の仕事場もあった。ホールや劇場の少ない地域では、こういう家は夜になると巡業の芸人たちや映画プロモーターたちが興行を打つステージになった。もちろん、三味線と民謡の芸人もやってくる。その芸人たちが奏でる土臭い民謡と三味線の響きは小杉山さんの原体験の一つでもある。

 手先の器用だった小杉山さんはやがて上京し、機械を相手にする仕事についた。測定器と図面の世界。三味線とはまったく無縁の生活だ。ところが三十才の頃、「紅屋」で働いていた従兄弟(いとこ)に誘われて、この世界に入った。もちろん器用さを見込まれてのこと。最初は材や糸巻・金具の精密な加工を専門に請け負っていたのが、やがて三味線の命ともいえる皮張りが重要な仕事になっていた。

 三味線は業者間の分業体制で出来上がるのが一般的だ。棹(ネックと指板)は棹屋、胴(サイドボディ)は胴屋、バチ(ピック)はバチ屋、といった具合だ。そして、その業者さんたちを統轄し、最終的に皮を張って楽器に仕上げるのが「紅屋」さんのような三味線屋さんだ。どんなにいい材を使っていても、裏表のこの皮張りひとつで楽器の鳴りは良くも悪くもなる。しかも破れる頻度も高い。大胆さと慎重さの両方が要求され、経験とセンスがものを言う。ベテランの職人さんでも上手く行かない確率が高いむづかしい楽器なのだ。*()内は参考のためのギター用語です。

 「紅屋」さんは長唄三味線や民謡三味線ももちろん扱っているが、主力商品は津軽三味線。その津軽三味線は進化形の楽器だ。十四世紀の中国大陸伝来時の古態を残しているのが沖縄三線とすれば、津軽三味線は最も新しい歴史を持っている。この500年間に三味線に加えられたさまざまな工夫や改良を取り入れながら、現在も演奏者の好みや体格に合わせてサイズや形状がアレンジされ進化しているのだ。

 最後に、小杉山さんの三味線に対する思いを語っていただいた。「口では言い表せないけれど、クリアーな音、スムースな音、抜けが良い音、芯にあたった音、そんな音がでると嬉しいねえ。」「鳴る三味線はたたき易いし、疲れねえんだあ。」「音が命だから、お客さんの気に入った音を追及してる。」「お客さんが育ててくれたんだ。良いお客さん、厳しいお客さんがいると職人は伸びる。」 そして、やっぱり「良い音だねえと言ってもらいたいねえ。」(秋田訛りをイメージして読んで下さい。)(文:城川隆生)


紅屋社長 荻野さん
三味線の価格は初心者向けの5万円前後のものから数百万円のオーダーメイドものまでさまざま。皮(中央上)や材(中央下)にも一つひとつに違いがある。

紅屋本店
〒228-0001 神奈川県座間市相模が丘1-40-13
電話 046-254-4681 FAX 046-254-4723
営業時間 : 10〜19時
休業日 : 毎週日曜、第3月曜
小田急線「小田急相模原」駅下車 徒歩15分 (専用駐車場あり)
県道町田厚木線(行幸道路)沿い

紅屋後援
「津軽の響&民謡うたまつり」
5月8日(日)

唄:斉藤京子、原田直之、山本謙司、高橋キヨ子、三浦隆子、丹山範雄 他
津軽三味線:澤田勝秋・澤田会、五錦竜二、小山貢・小山会

14:30開場 15:00開演
場所:グリーンホール相模大野(大ホール)
S席:4500円 A席:3500円 B席:2500円
主催:国土測量設計(株)


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