あれ、この人見たことあるって思った方も多いかもしれない。ジャニーズの「TOKIO」ファンだったらライブや紅白歌合戦で、JAZZフリークだったらビッグバンド「The 3rd」（前田憲男、猪俣猛の両氏がリーダー）をはじめとするJAZZバンドでトランペットを吹いている姿を。今月の音楽人は町田のトランペット奏者 大脇 淳 さん、26才。

　大脇さんはアメリカ東海岸ボストンのバークリー音楽院出身。実はここにはたくさんの日本人学生がいる。でも、その中でとことんまでやり抜くのは並大抵のことではない。朝８時登校、授業は全部MDにも録音、放課後は深夜２時まで校内のあちこちでセッション（最初の１年間は声もかからなかった）、帰宅後朝４時までMDを聞きながら授業の復習、そして就寝。大脇さんは、こんな生活を自分に課しながら、時々ニューヨークに行っては大御所クラーク・テリーに１年間弟子入りを頼み続けていた「直球勝負」（本人談）のミュージシャン。やがて、彼のバンドは、ストリートで黒山の人だかりを生み、地元紙「ボストングローブ」にも取り上げられることに。

　大脇さんがトランペットを始めたのは町田市立南第一小学校の鼓笛クラブ。お兄さんの影響だ。そして、町田市立南中学校吹奏楽部、町田市民吹奏楽団、都立小川高校吹奏楽部に所属してトランペットを吹いてきた。はたから見るとまるでトランペットが体の一部のような生活をしていたように思えるけれど、本人は好きなのにまだ気付いていなかったと言う。

　高校2年の時に東京都の選抜メンバーに選ばれて、初めてポップス系の曲の楽しさと「音色」の大切さを経験。高校卒業後は獣医系の大学を目指すために、なんと自らトランペットを封印して予備校に通い始めた。ところが、12月1日、突然音楽系の学校を受験したいという気持ちを抑えられなくなり、もちろん家庭内のひと悶着を経験した末、受験先を急遽変更。 1997年、洗足学園JAZZコ-スに入学しトランペットを原朋直氏に師事することになった。同じころ、現在町田で活動をしているファンクバンドＪＵＳＯをリーダー佐藤氏と立ち上げたのは町田界隈ではちょっと知られた話。在学中にはNHKの番組『山下洋輔のJAZZの掟』にも出演した。

　ところが、実は「JAZZコース」に在籍しながら、「全然ついていけていなかった」と白状する大脇さん。それでもまだまだ挑戦したい大脇さんは、ご両親に期限付きの許しを得て、ボストンへ向かった。バークリーでは楽器技能・リーディング（楽譜）・インプロヴィゼーション・リズムの4項目にもとづいて8段階にクラス分けされる。入学時の大脇さんはオール2。１という人はまずいないからほとんどビリだった。そこからはい上がるための生活が朝8時から朝4時までの音楽漬けだったのだ。そしてトランペットをタイガ-大越氏に師事、学外ではクラ-ク・テリ-やフレディ-・ハバ-ドからも直接教えを受ける幸運もあって、2002年に無事卒業、そして帰国、同年夏よりドラムの猪俣猛のコンボでプロデビュ-した。

　大脇さんは、このレベルまで来ても、「満足したくない。まだまだ入口です」と謙虚だ。「とにかく好きなんです」「小学生の時と今吹いている感覚と何も変らないんです」。そして「自分のやっていることを信じて努力すれば、最大限の事をし続ければ、何とかやれる。それに楽しくやること」と後輩たちへのコメントも残してくれた。色んな形で自分が今まで学んだものを地元に還元したいという意欲もたっぷりだ。

　今後、大脇さんは自分のリーダーバンドの活動を中心にやって行きたいと考えている。「大脇淳トリオ」「大脇淳クインテット」「大脇淳ジャズオーケストラ」に朗読・トランペット・ギターのちょっとかわった表現。「普通に聞ける、自然と耳に入ってくるようなあったかい音楽をやりたい」と語る大脇さんの新年のライブスケジュールも下にご紹介。なお、今までは個人で受け付けていたレッスンも、今年からは大脇さんの本拠地スガナミ楽器（町田）で「大脇淳トランペット教室」として始まる予定。（文：城川隆生）