「バリトン・サックス奏者のみのバンドとしては世界最大（！）を誇る」とか「11人のバリトンサックスがアンサンブルを奏でるというかなり低音フェチ（！）のバンド」なんていう表現で音楽系メディアをこの4年間騒がせている「東京中低域」。ご存知の方もきっと多いだろう。今月の音楽人は、この「東京中低域」のサブリーダーでもあり、「藤井郷子オーケストラ」「missing link」「板橋文夫（p）MIXダイナマイト・スペシャル」「渋さ知らズ」他（たくさん！）の幅広い活動で知られるオダサガ（小田急相模原）のバリトンサックス奏者 吉田隆一さん。

　バリトンサックスは「男！」っていう感じの巨大な楽器である。しかも吉田さんは「奇才」とか「強烈なサックスプレイ」と形容されているミュージシャン。でも、むくつけき人？と思ってはいけない。普段はクールでスタイリッシュな印象を与える音楽人だ。ただし、語りはじめるとやっぱり熱い。

「今の世の中は『良い・悪い』とか『強い・弱い』といった判断で切り捨てすぎです。とってももったいない判断だと思います。悪いと言われているもの、弱いもの、つまらないものの中にも美しさがあります。自分の中の弱さとかを含めてそんなものを追求して表現できたら良いと思っています。」「 今年7月から始めた室内楽ユニット『tea-pool』にはそういう思いもあります。」

「音楽をずっとやって来て思ったことは、単にサックス奏者というプレイヤーになるんではなくてミュージシャン・音楽家にならなければということです。向き・不向きもあると思いますが。自分の音楽は自分で作らなければ。多少は流されても、自分の居場所は自分で作ろうと思っています。」

「どこかの音楽ジャンルで収まりたくはないです。狭い世界ですごいって言われてたってしょうがないと思います。もっと色んなことをこだわりなく力を抜いてやりたいです。」「お世話になった林栄一（as）さんの『何でも良いんだよ』というコトバが好きなんです。」

　ところで、吉田さんは麻溝台中学校吹奏楽部そして上鶴間高校吹奏楽部のご出身。中学時代、まだ小さかった体全体で吹いている時に覚えた気持ち良さ。この感覚がバリトンサックス奏者 吉田隆一を生んだと言っても過言ではない。その頃、部活で強制された厳しいトレーニングについても懐かしそうに語る吉田さんである。

　さて、19才の頃、吉田さんの人生には新たな転機が訪れる。いや、自分で飛び込んだと言った方が正確だ。林栄一率いる「林管楽交」、大学のビッグバンド、荻窪グッドマンでの毎月の無伴奏即興ソロライブ、そして、チンドン屋に弟子入りし正真正銘のちんどん屋（！）、江戸戯作文学の研究、etc.　しかも、これが全部同時進行。そしてこの時に培われた人脈や実力・センスが今の吉田隆一の武器になっているのでないだろうか。それに加えて、完璧なマニアの域に到達しては移行し続けてきたマイブームの数々（ロシアンカメラ？・ヴェルサイユの薔薇？・腕時計・ウクレレ　他　無数）。この音楽人の方向性を読むことは誰にもできない。（文：城川隆生）