町田音楽ネットワーク
今月の音楽人
29 2003年12月号)

何も存在していない所に人の心を動かす「モノ」を創り出す。
その「モノ」には誰も触る事ができないし終わればその存在は消えてしまう。
そんな「モノ」をこの地域で創り出してきた人々を紹介していきたい。


―  野性尺八 KIZAN(大由 鬼山) さん 



 「気」がこもった尺八の音が響き渡った。寒風を切り裂く。「修業時代に、滝に向かって吹いていた寒稽古を思い出すなー。」

 喜多郎(シンセサイザー)、
ジョージ川口(Drums.)、金井英人(Bass)、小口大八(御諏訪太鼓)、ブッチ・モリス(cornet)、吉沢元治(Bass)、ヒダノ修一(和太鼓)、The Blue Coats(ビッグバンド)、津軽三味線、平家琵琶、モダンダンス、舞踏、etc.・・・・・、音楽ジャンルを超えた共演者たち。アメリカ、ロシアをはじめとするワールドワイドな活動。今月の音楽人は「コルトレーンが好きなんだよ。」と語る尺八奏者、KIZAN(大由 鬼山・だいよし きざん)さん


 KIZANさんは兵庫県西宮のお生まれ、12才でこちらに転居して以来の相模原市民だ。清新小学校、旭中学校のご出身。

 尺八との出会いは横浜の県立商工山岳部で登山活動に明け暮れていた高校時代。ある日、手伝いに行った顧問の先生の引越し現場で偶然見つけた尺八、いくら吹いても音が出ないから家に借りて帰ったのがそもそもの始まり。山で吹くのにいい楽器だからと常に持ち運ぶようになった。やがて、新らしい尺八を購入してもらい、高校生ながらお父様の勤務先の尺八部に入部。実は、これは山は危ないからとひそかに息子さんの興味を方向転換させようというお父様の作戦でもあった。

 KIZANさんのジャンルを超えた音楽活動は高校時代にもう始まっている。時代はフォークソングブーム。フォークグループに頼まれてライブに出演。高校3年からは横浜中華街にあった伝説的ジャズクラブ「ストーククラブ」のセッションに参加するようになる。しかもメンバーはベーシストだったお兄様をはじめ、出沼(G.)・松本(Pf. シャープス&フラッツ)といった面々。

 尺八の本格的な修業に入ったのは実はその後だ。都山流加藤栖山に師事し、それは先生がご存命だった7年前まで続いた。もちろんKIZANさんご自身も都山流大師範。

 初めて国外で演奏したのは何とフリージャズ。その後、古典、民謡、童謡、演歌、世界のフォークソング、ジャズスタンダード、フリージャズ、オリジナル曲、ソロ・インプロヴィゼイションとその活動に垣根は無い。しかも全身の力を込めて気を発する表現スタイル。「動的」「慟哭的」という形容詞がぴったりだ。

 一尺八寸の尺八という楽器は法螺貝と同じく宗教楽器からスタートしている。明治政府が普化宗を禁止するまでその虚無僧のものだった。普化宗は座禅ではなく尺八を吹くことを基本の修業とする禅宗。「その時代にも自然を即興で表現すると言う修業があったし、虚無僧は尺八を屋外で吹いていたんだ。」とKIZANさんは言う。現在、特異なものとして受け取られているKIZANさんの野性的インプロヴィゼイション表現は尺八本来の姿でもあるのだ。(文:城川隆生)

【今年の近郊のライブ予定】
12月31日 20:00>>年越しオールナイト
JAZZ MEN CLUB
with 柿崎恭子(Bass) & others
横浜市中区山下町74−6 ロクマルビルB2
045-662-6699


☆ 来年はロシアのサクソフォーン奏者イーゴリー・ブットマンとのライブが企画進行中。

  
30年以上愛用の尺八

KIZAN 尺八道場
(毎週木曜日、生徒募集中)
場所:きく岡(和楽器店)

矢部4-10-16(042-755-6632)


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