町田音楽ネットワーク
今月の音楽人

19 2003年2月号)

何も存在していない所に人の心を動かす「モノ」を創り出す。
その「モノ」には誰も触る事ができないし終わればその存在は消えてしまう。
そんな「モノ」をこの地域で創り出してきた人々を紹介していきたい。


―  ピアニスト 西山 葵耀古 さん ―


 1963年製のハンブルクSTAINWAYが居間に置いてある。スタインウェイと言えば本格的な音楽ホールには必ず置いてあるピアノだ。スタインウェイの値段が非常に高いのは、名前が売れているから、ではなく材料費が非常にかかっているからだそうだ。でもホントに良い音のするスタインウェイは他社に買収されてしまった1972年以前のものだという話を聞いたことがある。1963年製・・・・・なるほど、「音色に対するこだわり」についてのお話がよく出てくる。CD「明けぬれば・・」(ひそやかなピアノ曲集)から聞こえてくるピアノの響きはあくまでもゆったりと美しい。オリジナル曲「伊吾国流砂」(はみこくりゅうしゃ)からはじまり、ドビュッシー、サティ、グリーグ、シューマン、スクリアビンと続くこのピアノ曲集は朝の夢幻の世界にさまざまな情景を浮かび上がらせる。今月の音楽人は独自の演奏活動を続けている相模大野在住のピアニスト 西山 葵耀古 (にしやまきょうこ)さんだ。

 西山さんは千葉県の出身、音楽家のご家庭で幼少の頃からピアノを弾くのが当たり前という環境で育った。音楽大学を卒業してからすぐにフランスに留学、パリエコールノルマル作曲家ディプロムを取得している。自分に作曲ノルマを課しながら音楽学校を続ける中で、西山さんはフランスと日本の色々な違いを「文化」の問題として再認識する。教会をはじめとして日常的に素晴らしい演奏をあまりお金をかけずに聞くことができたり、演奏家にはきちんとお金を払って音楽を聴こうというケジメのある文化環境、世間体に縛られない人々。こういったことは日本ではなかなか経験できないことだった。しかし、「日本的なもの」の素晴らしさを再発見することが出来たと西山さんは語る。食べ物(なぜか「出し巻き玉子」に感動!)、邦楽(「長唄」に感動!)、あえてシンメトリー(左右対称)にしないデザイン表現、繊細な美意識と遊びがある日本の「コトバ」など、フランスに渡る前は見向きもしなかった日本文化の「宝」に気付かされた。

 さて、現在の西山さんの活動は単にピアノを弾くということだけに留まってはいない。「コトバ」と「音楽」のコラボレーション、そのコトバとは室生犀星や荻原朔太郎の「詩」や「歌」であったり、独自の世界を表現した自作脚本の「朗読」等々である。

 「音楽を、曲を知っている 知らないではなく、曲に合う言葉を選んで語ることによって、聴く人の中でイマジネーションの翼が拡がり新たな連想、発見があるようなコンサートを作って行きたい。」
(文:城川隆生)

この春に企画されているのは、
 「ワインを楽しむ会」
日時:3月14日(金) 19:00〜
場所:相模大野
L'assiette
相模大野3丁目、042-746-3737

「スクリアビンを想う」(仮題)
・・・ロシアの作曲家スクリアビンと帝政ロシアの終末期・・・
日時:4月20日(日) 15:00〜
場所:サローネ・クリストフォリ
世田谷区祖師谷4-9-24、03-3483-0223
(小田急線成城学園前北口下車 徒歩12分)

Nile Music
(西山さんオフィシャルページ)

音源の試聴も出来ます。


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