町田音楽ネットワーク
今月の音楽人

15 2002年10月号)

何も存在していない所に人の心を動かす「モノ」を創り出す。
その「モノ」には誰も触る事ができないし終わればその存在は消えてしまう。
そんな「モノ」をこの地域で創り出してきた人々を紹介していきたい。


―  ハーピスト&中国語教師 平松 悟 さん ―


 テン(10)ホールズハープ ・・・・・・ ブルースマンがマイクと一緒にくわえ込んでウィ―ピングするハープ。ギターをかき鳴らすフォークシンガーが首から装着して吹きまくるフォーキーなハープ。要は音の出る穴が10コあるハーモニカだ。一昔前はホーナーの「ブルースハープ」くらいしかなかったような記憶がある。今、楽器屋さんに行くと安いのも含めてバラエティーがずいぶん増えている。今月の音楽人はそんな10ホールズハープの達人 平松 悟 さんだ。

 ただし平松さんの経歴はミュージシャンとしてはかなり異色だ。ブルースハーピストに多いタイプは学生時代にバンドやっててブルース好きになって今ハープもやってます、という感じだ。平松さんは全然違う。きっかけが中華人民共和国と結びついている(!?)

 1995年、平松さんは高校卒業とほぼ同時に中国東北地方に渡っている。全くの一人旅だ。旅行資金は3年間の朝刊配りで貯めたいわゆるバイト代。なぜ中国か?なんと平松少年は戦後50周年を意識し、日本の戦争責任問題を中国大陸で体で感じてみようとしたのである。平松さんが通っていた県立相武台高校には平和教育の伝統があった。今でも続いている文化祭の「時代展」では相模原市内の在日米軍基地の問題、沖縄の問題、朝鮮半島の問題などをテーマに調査・展示が行われてきた。生徒会本部役員だった平松さんもそうした雰囲気の中で戦争と平和の問題に自然に関心を持ったようだ。(キンモクセイのイトウ君とは同じクラスだったそうな。)

 でも、進学する訳でも就職する訳でもなく。海を渡ってしまうというところが平松さんのすごさだ。よりによって、かつて日本陸軍の関東軍が謀略を使って傀儡国家「満州帝国」を作ってしまった東北地方へだ。そして、ハーモニカの話はここから始まる。どうも旅の供になる「小さい楽器」が欲しかっただけらしい。そう語る割りにはドン・ベイガー、チャーリー・マッコイ、妹尾隆一郎、松田幸一の教則音源とMDウォークマンをしっかり用意して出発した。もちろん、key「C」のハープも1本。

 数ヵ月後、いったん帰国。中国のとりこになった平松さんは今度は本格的に上海に留学した。と同時にハープの腕もぐんぐん上達。ところがここで問題があった。複音ハーモニカならいざ知らず、中国ではブルースハープが見当たらない。売ってるお店も吹いている人もいない。ハープが壊れた時に困った。でも、中国にもたくさんある所があった。実は10ホールズハープは中国から世界に向けて輸出されていた。つまりハーモニカ工場!そして上海のハーモニカ工場に平松悟ブルースハープ教室が誕生した。
 1998年、帰国、そして中国で知り合った奥様と国際結婚。現在はハーモニカ教師、ミュージシャン、中国語教師、通訳&翻訳といういくつもの肩書を持ち活躍中である。

 音楽人としての活動も紹介しておこう。
2000年ハーモニカ全日本大会優勝、2002年アジア太平洋ハーモニカ大会金賞。
ハーモニカ教室:相模大野自宅教室、菊名駅前「ハタ楽器」、また
遠方の場合はカラオケボックスや小さなスタジオを使いマンツーマンのレッスンをしている。他にMP3ファイル、メールを使う通信教育も手がけている。習いたい方はこちらへ(もちろん中国語でもOK!) ⇒ HP

 演奏はこの周辺のライブハウスでも時々聞ける。もちろんアドリブたっぷりのブルースハープ♪でもジャンルにこだわらずどんな曲でも吹くのが平松流。
(文:城川隆生)


各キーのハープを差し込んだ平松さん愛用のベルト

第4回アジア太平洋ハーモニカ大会上位入賞者記念コンサート
10月23日(水)19:00〜(開場18:30)
場所:ルーテル市ヶ谷センター

(JR市ヶ谷駅下車 徒歩3分、地下鉄有楽町線南北線市ヶ谷駅 徒歩1分)

03-3260-8621

バックナンバー